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お知らせ

本ブログの左上、プロフィールの欄の記事を見ると、ちょうど100となりました。
2011年2月2日の第1回にはじまって、原則月に1回の更新で100まで続くとは、当初思ってもみませんでした。
切りのいいところにきたので、今後は月1回の更新にこだわらず、気の向いたときに更新することにしました。
えーと、更新回数が増えることはまずないと思います。
事実上の休刊? そうなるかもしれませんが、いまのところ最低年に1回は記事を書きたいと思っています。
月刊から季刊、年刊をとばして、一気に不定期刊にいっちゃいます。
ということで、これまでありがとうございました。そして、これからも――たぶん――よろしくお願いします。

西秋生さんの『神樂坂隧道』と、雫石鉄也さんの『ボトルキープ』の販売は引き続きおこなっています。左側の『マイカテゴリー』の、それぞれの書名をクリックしていただくと、販売ページに移動します。

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ロマンチック

12月なのでクリスマスの話を。

クリスマス
 目が覚めると窓の外は雪。
 一年ぶりの目覚め。
 日が過ぎるにつれて家の周りはにぎやかになる。
 楽しいパーティ、プレゼントの交換。
 静かに迎える聖なる夜。
 やがて年が改まるころ、わが家は暗い箱の中へ。
 おやすみなさい、また来年。
 そうつぶやいてもだれも気付かない。
 ツリーの飾りの小さな家に、私が住んでいることなんて。

ロマンチックとはいえないけれど、この季節にはこんなお話を書きたくなる。


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時代性

どうも新しいものが次々出てくると、お話などを書いてもすぐに古臭くなってしまう。かつては監視カメラで個人の行動が逐一把握されるという近未来ディストピアのような小説がいくつも書かれたが、いまではそれを分析して予測するシステムが実現している。生半可な知識で知ったかぶりをすると恥をかくかもしれない。以下のお話は、その見本のようなもの。

 監視カメラ
 アパートにとつぜん警察官がやってきた。逮捕するという。
「ぼくが何かしたんですか? 身に覚えがないけれど」
「何もしていません。ただ、これからのこともあるんでね。だから逮捕ではなく、保護なんです」
 連れていかれた交番で話を聞く。なんでも、新たに犯罪予防システムというのが導入された結果、ぼくが引っかかったそうなのだ。どんなシステムかというと――警察官の説明では――民間も公共も含めてすべての監視カメラと、スマホで撮影された映像がビッグデータとして一元化され分析されて、人間の行動の特徴が類型化されることで、犯罪傾向がわかるようになったそうなのだ。それで犯罪を起こしそうな人間を事前に保護することによって、未然にそれを防止するという。
「つまりはぼくが犯罪をしでかす前に保護されたということですね。ありがたいことで――って、そんなわけないでしょう。いったいぼくが何をするって言うんですか!」
「いや、あなたが何かしそうな人間と判断されたというのではなくてですね……」
 警察官の答はどうも歯切れが悪い。そこへ白衣を着た二人の男が到着した。警察官はほっとした様子で、ぼくを彼らに引き渡した。
「いやいやいや、説明してくださいよ。ぼくが逮捕――保護でもいいですけど――された理由を。その犯罪予防システムのどんな類型にぼくが分類されたんですか」
 すると白衣の男の一人が、嬉しそうに説明しだした。
「いえ、あなたはどんな犯罪傾向にも分類されてはいないのです。というか、人類のどんな行動形態にも当てはまらないのですよ。つまりあなたはシステムから『人間』ではないと見做されているのです」
「に、人間でないのなら、ぼくは何なのですか」
「現時点で、ゾンビ、ゴースト、妖怪、蜃気楼、その他のどれかにあたります」
「その他って、何ですか」
「ゾンビ、ゴースト、妖怪、蜃気楼、それと人間以外の何かです。つまり類型化できないものです。私たちが来たのも、あなたが何ものか詳しく調べて差し上げるためです。交番では無理なので、いっしょに来ていただきます」
 こうしてぼくは連れ去られた。そしていまだに、どこかわけのわからない場所でぼくの類型を決めるテストが行われている。いまのところ、ぼくは人間、ゾンビ、ゴースト、妖怪、蜃気楼、ロボット、宇宙人、銅像、神、悪魔以外の何ものかであるらしいが、はっきりしたことは不明である。

だれも来ない山の中とか限界集落とか廃村に監視カメラがあったら怖いだろうな。いずれそんなお話も書いてみたいが。


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シリーズもの

とくに発表するあてがあるわけではないが、シリーズものを書いている。設定が決まっているので慣れてくると楽しく書ける。シリーズものの一つに、古ぼけたアパートを舞台にしたのがある。登場人物は毎回違うが、最後はいなくなってしまうという約束にしている。なぜかというと、アパートが二階建て各階四部屋、つまり合計八部屋しかない設定なので、八話以上になると部屋を開けないといけないからだ。だから半ば強引に終わらせることになる。

 隣人
 古びたアパートに暮らす清水早苗の隣に入居者があったようだ。薄い壁を通して物音が聞こえる。最初は人が出入りしたり荷物を運びこんだりするような。ドアの開け閉め。言葉の意味が聞き取れないほどのひそやかな声。畳の上を走り回る響き。小さな子供のいる家族かしらと清水早苗は推測する。
 数日たつと獣の唸るような声が混じる。また日が過ぎると、床をぺたぺた歩く音。ずるずる這いまわる音もする。
 隣の人たちは人間じゃないのだろうか。
 清水早苗は会社から帰ってくると、毎晩壁に耳をつけて音の変化を聞いていた。盗み聞きを悪いと思っていなかった。聞こえるんだもの、仕方がないよね。
 ある夜、いつものようにコップを壁に立てて耳をあてがっていると――こうするとよく聞こえるのだ――ぎしぎしと壁がきしみだした。隣室でなにかが膨らんで、部屋いっぱいになりさらに壁を押し始めたような、そんな気配。くぐもった声も聞こえるが人じゃなさそうだ。
 じっと聞いている清水早苗の、目の前の壁になにかが滲み出してきた。それでも清水早苗は耳を離さなかった。

 一人暮らしの部屋で死ぬと不審死と見做されて警察の検死がある。清水早苗の死因は心不全で事件性はないとされた。
「壁に耳をつけて死んでいたなんて、なにかを聞いていたんでしょうかね」
 検視医は遺体が運び出された部屋で、立ち会った管理人に聞いた。
「ここは端部屋なので、その壁の向こうにはなにもありませんよ。奥の部屋には窓もあります。冬になると風の音がきついので、わざわざ耳を当てなくてもひゅーひゅーとうるさいぐらいです」

このシリーズは上記のお話で18作となった。みんな途中で読者を放り出したような終わりかたになっている。考えないといけないなと思う。

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学校帰り

住まいのマンションのエレベーターに乗ると子供たちの姿を急に見るようになった。もう9月なのだ。いつのまにか学校が始まっているのも気がつかない生活だなあということに気づいたりする。いま思うと子どものころの学校帰りにはなんか不思議なことがあったりしたような気もするけれど、思い出さないのは大したことではなかったのだろう。その当時ここに書いたような目に遭っていれば、いまここにはいないのだろうから。

 知らない家
 学校の帰りに知らない家を見た。朝はなかったのに。新しくできたにしては古めかしい家だ。
 えんがわに、ひくいお日さまがさしている。あそこはあき地だったはず。
 家に帰ってお母さんに聞いた。
「むこうのあき地に家があったよ」
「ふーん」
 夕ごはんのよういでいそがしいみたい。
 次の日、行くときも帰るときも、家はなかった。草がぼうぼう生えたあき地だった。
 あれはなんだったのだろう。
 なんにちかして、学校の帰りにまた知らない家を見た。ずっと昔からそこにあったようだった。ぼくは走って帰った。
「お母さん、また家があったよ」
「あらそうなの」とお母さんは言った。「おかしな家ねえ」
「いっしょに見に行こうよ」
「まあ、なんのあそびなの。いまいそがしいから、またこんどね」
 知らない家は、なんにちかおきにあらわれた。
 それはいつも、ぼくが一人で帰っているときだ。友だちといっしょなら、そこはあき地だった。
 知らない家はただそこにあるだけで、こわくはなかった。
 外からのぞくと、家の中はひっそりして、だれもいないようだった。
 ある日、知らない家のえんがわに、おばあさんがすわっていた。ぼくと目があうと、おばあさんはにっこりして言った。
「こんにちは」
 あいさつされたらちゃんと答えなきゃ。
「こんにちは」
「どこのおうちのお友だちかしら」
「あっちの――角をまがったところです」
 ぼくは自分の家のほうをゆびさした。
「まあおあがりなさいな、おかしがあるのよ」
 おばあさんはぼくを手まねきした。
「い、いりません――さようなら」
 ぼくはこわくなってかけ出した。まっしぐらに家にむかったつもりだったけど、いつまで走ってもつかなかった。
 どこをどう走ったのか、ぼくはまた知らない家の前に来た。
 知らない家の中から、お母さんの声がした。
「お帰りなさい、おそかったのね。どこであそんでいたの。入ってきて手をあらいなさい」
 お父さんの声もした。
「今日はしごとが早く終わったから、ケーキを買ってきたんだぞ。あとでみんなで食べよう。――そんなところにつっ立ってないで、入ってきなさい」
「お兄ちゃん、ごはんだよ。もうおなかぺこぺこ。早く入ってきてよね」
 妹の声だ。
 知らない家のげんかんが開いていて、中からみんなの声がする。
 げんかんのおくはまっくらで、まるで家が口を大きくあけているみたいだった。

まあこれほどではなくても、不思議なものを見た記憶はある。たとえば国道わきに落ちていたきれいな七色をしたウンコ。あれはなんだったのだろう。


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暑中お見舞い申し上げます

暑い。クーラーをかけていないと寝られない。ということで(あまり関係はないけれど)眠りに関するお話を。

寝言
「チハルちゃんのスカートをめくったから、振られたのよねえ……」
 突然、眠っているはずの妻が言った。
「は?」
 あとからベッドに入り、いままさに眠りに落ちようとしていたぼくは、おどろいて目を開いた。横にいる妻を見る。すやすやと寝息を立てている。
 寝言か……それにしては。
「教室でうんちを漏らしたとき、チハルちゃんだけが笑わなかったから、好きになったのに……」
 目をつむったまま、妻がまた言った。ぼくの記憶は一瞬にして小学生に戻った。
 たしかに一年生のとき、授業中トイレに行きたいとどうしても言えなかったので、そんなことがあった。まわりのみんなが笑ったのに、チハルちゃんだけは笑わなかった。それどころか放課後、クラスのみんながうんち、お漏らしなどとはやし立てるなか、なにごともなかったように一緒に帰ろうと言ってくれた。
 スカートをめくったのは、親愛の情を示したかっただけなんだ。
 しかし、そんな恥ずかしい秘密を妻に話したことはない。妻が知っているはずはないのだ。
「ねえ、ゆうべ寝言を言っていたよ」
 翌朝、さりげなく妻に聞いてみた。
「あらそうなの。夢でも見たのかしら、覚えていないわ」
 それならいいんだが。
「ハルコってとんでもないやつよね。ラブメールを二またかけた男に見せるなんて……」
 その夜、妻はまた寝言を言った。学生時代につきあっていた彼女にされたことだ。もちろん妻には秘密にしていた。
「また寝言を言っていたよ、疲れているんじゃないか」
 朝になってそう聞いた。
「体調は万全よ。ねえ、私どんな寝言を言ったの? 教えて」
 どうやら覚えていないようだ。あまり問い詰めて藪蛇になってもいけないので、ぼくは適当にごまかした。
 それから毎夜、妻は寝言でぼくの秘密をつぶやいた。
 仕事の失敗、隠している趣味――女装とかではなく、こっそり小説まがいのものを書いていること、株に手を出して大損したこと――妻の寝言はことごとくぼくの秘密を言い当てていた。
 ぼくは学生時代の友人の脳科学者を訪ねた。
 知人のことだけどさ、と前置きして、奥さんが寝言で知人の秘密――もちろん奥さんは知らない――を次々と言い当てる。目がさめると寝言を言った本人は覚えていないが、知人は気が気ではない。どうすればいいだろう。
「ははあ、それはテレパスの一種だな。予知夢、というのがある。この場合は未来予測ではなく、相手の記憶や感情を夢に見るのだから少し違うが、寝ている間にその能力が発現して、それが口をついて出る。しかし目がさめると覚えていない。――超能力を押さえる治療なんてしたことがないな。いっそ、寝言を録音して聞かせてやればどうなんだい」
 友人はにやりと笑った。お前のことだろ、とその目が言っていた。
 困ったことになった。過去の出来事はともかく、ぼくは今だって妻に秘密を持っている。
 妻の寝言は、ぼくの過去からさかのぼって、現在に近づいているのだ。目がさめると覚えていないといっても、いつまでもそれが続くという保証なんてない。
 ある朝、妻が寝言を覚えていたら……。
「いっそ、殺してしまおうか……」
 気持ちよさそうに眠っている妻の口から、そんな言葉が出た。二、三日まえ、ぼくは本気でそんなことを考えたのだ。
 ぼくは一晩中、まんじりともせず妻の寝顔を見ていた。今夜こそ、あの秘密をつぶやくんじゃないか。
 しかし、妻はその夜はなにもしゃべらなかった。それに、言ったとしても寝言の内容を覚えていないのだ。だいじょうぶ――ぼくは自分に言い聞かせて、仕事に出かけた。
 夜、帰宅すると妻が恐い顔で言った。
「あなた、私に秘密を持っているでしょう」
 しまった、ついに思い出したのか。
「えっ、だ、だって、昨夜はそんなこと言っていなかったのに……」
「なに寝言を言っているの。これをごらんなさい」
 妻はぼくの前に数枚の写真を置いた。ホテルから出るぼくと彼女がしっかり写っていた。
「前から怪しいと思っていたのよ。探偵に調べてもらったわ」
 そうか、ぼくの浮気はもう「秘密」ではなかったのだ。

家人に聞くと、私自身はいびきをかくが寝言は言わないそうだ。別に用心しているわけではない。

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キューピーさん

見た夢の記憶で一番古いと思われるものの一つに、キューピーの夢がある。自宅の廊下を首から上のないキューピーが横向きに歩いているという、ただそれだけだったが、とても怖かった。なぜだかわからない。その夢をもとにしたお話。

キューピーさん
 道ばたで頭のないキューピー人形をひろった。
 家にもって帰った。
 すてようと思ったけれど、キューピーさんがもって帰ってと言ったように思えたからだ。
 頭のかわりをさがしてあげよう。
 スーパーボールをのせてみた。
 キューピーさんは体をぶるぶるふるわせておっことした。
 ママのクリームのびんをのせてみた。
 ドレッシングのキャップものせてみた。
 なにをのせてもおっことしてしまう。
 気にいらないんだ。
 ハブラシのえのところを首のあなにさしこんで、キューピーさんがふるえてもおっこちないようにした。
 キューピーさんはつくえからころがりおちてハブラシをおってしまった。
 そんな力があるんだ。おこっているみたいだった。
 朝めをさますと、キューピーさんはふとんの中にいた。首のあなをのぞくと、中はまっくらですいこまれそうだ。
 こわくなった。
 キューピーさんをもって家をでた。
 がけのうえから川になげこんだ。
 家に帰ると、パパのへやの前のろうかに、キューピーさんがころがっていた。首のあなが、少しひらいたパパのへやのドアをむいていた。
 キューピーさんをもってパパのへやに入った。
 そうするようにキューピーさんに言われた気がしたからだ。
 パパのつくえのひきだしが、少しあいていた。
 いつも、だいじなはんこなんかを入れているからと、かぎをかけているひきだしだった。
 ぼくはそっと、ひきだしをあけてみた。
 かぎはかかっていなかった。
 ティッシュにつつまれたものが入っていた。
 かってにそんなことをしてはいけないのに、キューピーさんをもった手が、それをとりあげた。
 ティッシュをはがすと、キューピーさんの頭が出てきた。
 首のところがはさみでむりに切ったように、ぎざぎざだった。
 思ったとおり、キューピーさんの顔はおこっていた。

ちなみに、古い夢のほかのものは、ジャングルの中を落下し続けるターザンの夢と、そのころ家にいたお手伝いのおばあさんがうさぎ跳びをしている夢だ。三つとも、小学校に上がる前、熱を出しているときに見た夢だと思う。


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お知らせ

WEB光文社文庫のサイトが、『Yomeba!』と装いを変えてスタートしました。
ショートショートスタジアムも、「ショートショートの宝箱」となり、さらに充実しそうです。
新装第1回は海野久実さんの「街角の落とし物」が掲載されています。

Yomeba!→ココ

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アイス

居酒屋で何人かで飲んでいるとき、店員が何かを売りに来た。棒のついたキャンデー型のアイスだった。キャンペーンをやっていて、棒に『当たり』と書いてあるともう一本もらえるという。お試しに一本買った。はずれだった。だれかが――自分だったかもしれない――ボールペンで『当たり』と書いたらもらえるかどうかやってみようと言いだした。もちろん自分も含めてその場にいる連中は紳士淑女ばかりだったので、そんな詐欺まがいのことはしなかった。もしそんなことをやったらどうなるかと考えてみた。

当たり
 駄菓子屋のおばあさんは白髪頭の年寄りで、おつりなんかもときどき間違える。眼鏡をかけているが、度が合っていないのか、目をすぼめるようにして五円玉と五十円玉をにらむんだ。
 だからアイスをなめ終わった棒に、ボールペンで『当たり』と書いてもわからないんじゃないかと思った。ちょっとしたイタズラのつもりだった。
「おばあさん、これ」
 なにげない顔をしたつもりでも、緊張していた。おばあさんは、いつもより長くアイスの棒を見ていた――ように思えた。ぼくはどきどきした。
「当たりだね――ちょっと待ってね」
 おばあさんは店の奥に消えた。そしてすぐに、新しいアイスを持ってきた。
 ぼくはそれを受けとると、店を出ようとした。
「お待ち、ここで食べていくんだよ」
 背中からおばあさんの声がした。
「ケースの調子が悪いんだよ。温度が下がらなくて、すぐに融けるからね」
 アイスを見ると、たしかに包装紙のあいだからクリームが落ちかけていた。
 ぼくは包装紙を破って、アイスを食べた。いつもはおいしいのに、味がしなかった。
 夢中でなめ終わって、ごちそうさまと言って行こうとした。
「それ、当たっていないかい?」
 ぼくは手に持った棒を見た。『当たり』と書かれていた。
「運のいい子だね」
 おばあさんはそう言うと、また店の奥から新しい――でも融けかかったアイスを持ってきた。
 そのときになって、ぼくははじめて気がついた。どうしてお店にあるアイスケースから出さないのだろう。
「さあ、早くお食べ。融けてしまうじゃないか」
 おばあさんの言いかたは、なんだかきつくなったようだ。
 仕方なく、ぼくはアイスを食べた。残った棒は、また『当たり』だった。
 その次も、そのまた次も、『当たり』が出た。
 そのたびにおばあさんは、店の奥から融けかけたアイスを持ってきた。
 お腹がぐるぐる鳴り出して、痛くなった。お尻がむずむずした。うんちがしたい。
 でも、おばあさんが「早く食べろ、融ける融ける」と言うと、どうしてもそうしなければいけない気がして、ぼくはアイスを食べ続けた。
 ぼくは泣きたくなった。
「ごめんなさい、はずれの棒に『当たり』って書いたんです。許してください」
「そんなことはどうでもいいんだよ。『当たり』は『当たり』だからね。さあ食べろ、すぐ食べろ、融ける前にどんどん食べろ」
 とうとうぼくは泣き出した。その拍子に、うんちが少し出てしまった。それでも、泣きじゃくるぼくの手から『当たり』の棒をひったくると、おばあさんは店の奥に入っていった。
 けれど、つぎに出てきたとき、おばあさんは手にアイスを持っていなかった。
「えええい、アイスがなくなってしまったわい」
 おばあさんの絞り出すような声で、ぼくはぴたりと泣き止んだ。今度こそ、許してもらえるかもしれない。
 おばあさんはぼくの前に立ちはだかって、くやしそうににらんでいたかと思うと、突然、白髪頭からずるずると融けはじめた。
 立ったまま、服といっしょに身体中がどろどろと崩れ落ち、やがて頭のてっぺんから白いものが現れた。理科室にある、人体模型の頭蓋骨と同じものだと思ったら、そうじゃなかった。
 それはのっぺりした、まっすぐな平べったい板だった。
 そして顔がすべてクリームのように融け落ちたとき、そこには大きな字で『当たり』と書かれていた。

因果応報というやつだ。道徳的な話なので、子どもたちにもぜひ読んでもらいたい。


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推理小説

推理小説――謎解きのあるお話を書いてみたいといつも思っているのだが、とても書けそうにない。トリックを考えるのが苦手なのだ。だいたい自分の書くものは、怪奇とか幻想とか――ようするにかなりの部分でルールを勝手に作ってしまえるものが多い。だからちゃんとしたトリックが作れないのだろう。それに少々考えたところで、もうすでに使われてしまっていたりして、こいつ、あの有名な作品を読んだことがないんだな、なんて冷笑されるのがオチだろう。(これはほかのジャンルでも言えることだが)
こんなふうにいけばいいのになあと思いつつ、以下のようなのを書いてみた。

ベストセラー
 ――なぜ私がベストセラーを出し続けるか、その秘密を喋れというのですね。それは売れる作品を書いているから……などというのでは特集記事にならない? まあ、その通りでしょう。せっかくこうしてインタビューしていただいているのですから、お話しましょう。
 ご存知のように、私が書く小説は謎解き本格ミステリーです。推理小説の最大の弱点はなんだと思われますか? そう、結末でトリックが明かされて、犯人がわかってしまうことです。
 もちろん読者もそれを承知で、何度も何度も読み返される名作や古典といえる作品もたくさんあります。しかしそれは文章力であったり、個性的なキャラクターを設定したり、再読の際は謎解きの過程を楽しむという読みかたをされたりするだけの、しっかりした技術が必要です。
 ところがそれらの方法は、本質的な問題――一度読むとトリックと犯人がわかってしまうというジレンマ――を解決しようと挑んだものではありません。所詮は次善の策なのです。私の書く小説がベストセラーになるのは、完全勝利ではありませんが、少なくとも正面から戦いを挑んで、それなりの得点を稼いだ結果といえるでしょう。
 持って回った言いかたをしてしまいました。はっきり言いますと、私の作品を読む読者は、結末で明かされたトリックと犯人を「覚えていない」のです。
 最後まで読んで、なるほどそうきたか、実に意外な犯人だと感心するのですが、読み終わったとたんそれらを忘れてしまうのです。
 なぜ? どうして? ――いいでしょう、開示いたしましょう。
 実は私が結末を書くとき、探偵がトリックと犯人を明かすときのセリフを、ある規則に従って文章にしているのです。ある規則というのは、私にもどうやって説明していいかわかりません。わかりやすい言葉で言うと、呪文、催眠術、魔法……なんでもいいのですが、その部分を読むと、そこに仕掛けられた言葉の配列によって、読み終わると同時に記憶がリセットされてしまうのです。
 つまり読者は、何度読んでも新鮮で意外な結末を味わうことができるのです。もっとも、すぐに忘れてしまうのですが。
 これが、私の作品がことごとくベストセラーになる理由なのです。少しだけ、私の作品から引用してみましょう。以下をお読みになってください。

「ではここで」と、探偵の変田一致は応接室に集められた事件の関係者を前にして宣言した。
「犯人を明かそうと思います。――犯人は、あなただ!」

「なんという意外な犯人だ。しかもこんなトリックが成立するには、偶然に頼るしかないじゃないですか、変田一致さん」
「偶然はときとして必然となるのですよ、須佐米警部」そう言い放つと、変田一致は悠然と鼻糞をほじくり出した。  <終>

 いかがでしょう。いま雑誌に連載中の作品の結末です。なに? 解決の部分が書かれていないって? いいえ、ちゃんと書かれているのですよ。忘れておしまいになられたのでしょう。
 ご遠慮なく、どうぞ何度でも、読み直してください。

こんなことをやっているから、いいトリックが思い浮かばないのかもしれない。真面目に取り組まなくてはね。

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